障碍者雇用の取り組み 第5回
中川 亮 × 山下 広幸「対談」
一般社団法人 障がい者自立支援協会(SIP)理事長 中川 亮
NPO法人 障害者雇用創造センター 理事 山下 広幸
障がい者数が約787万人といわれる中、一般就労されている方は一握りです。また障がいを持つ本人やその家族が障害福祉サービスの存在すら知らず、社会から取り残されている方が大勢います。そこで今回は、一般社団法人障がい者自立支援協会の理事長の中川亮さんと、障害者雇用創造センターの理事である山下広幸が障がい者の就労支援の現状、今後について熱く語り合います。
― 障がい者の就労支援はどうあるべきか?
山下 まずは中川社長が経営されている一般社団法人障がい者自立支援協会(SIP)の取り組みを教えて下さい。
中川 民間の事業所で就労継続支援A型・B型を設立した事業所は、手さぐり状態で運営されている事が多い中、「横のつながりを持って成功事例や失敗事例などの共有を図りたい。それが個々のレベルアップや利用者さんへのより良いサービスにつながるんじゃないか」、という想いから2年前にSIPを立ち上げました。具体的には月1回の定例会と全国から障がい者福祉に関わる方々の講演会を開いています。
今後は事業所である前に、良い企業を目指すべき。より良い事業所にしようという以前に、社員研修制度、社内規定、昇給制度などが整備されていない事業所が案外多いんです。かと言って外部に依頼すると結構な費用がかかってしまうため手付かずになっている。そのようなものをSIPが一手に引き受けていきます。あとはお仕事の斡旋ですね。各事業所に大きな仕事の依頼があっても、一つの事業所では受けられない。そこで団体で受けると登録している各事業所で振り分けが可能となってきます。
もう一つは、私はNPO法人名古屋市民生活支援センターの理事長も兼任しており、高齢者団体との提携もしているので、グループホームに関する物件情報や土地情報が入ってくるんです。新築で建てる際はSIPが地主さんと話し合い、SIPに登録してもらっている事業所さんに運営をしてもらいノウハウも教えるという形ですね。親御さんも高齢化し、身寄りのない方も増えてくる中、障がい者を対象としたグループホームが不足しているという現状なので、グループホームで生活しながら、日中は就労施設で働くという形ができれば、間違いなく地域貢献にも繋がると思います。今後はそちらにも力を入れていきたいですね。
山下 そうですね。障がいを持つ方の中には家庭環境が要因の方も多い。事業所に来ている時間は調子が良くても自宅で調子を崩す。また、事業所で働いて得た収入と年金とを併せ、ステップアップの1つとして、単身生活(家族からの自立した生活)を送りたい。かといって家を出るお金もない…。グループホームがたくさんできるといいですよね。
中川 生活はもちろん精神面でも安定し中川 生活はもちろん精神面でも安定しますし、今後多くの地域で広げていきたいですね。高齢者団体と障がい者団体、それを束ねるNPOが存在するという事で、両方の情報を取りつつ一元化できるのがSIPの強み。高齢者と障がい者と子供たちが一緒になって生活できる場所、言うなれば福祉村のような街づくりが夢です。
山下 現在SIPに登録されている就労支援の団体はどれくらいですか?
中川 約30団体ですが、定例会に毎回来られる事業所さんは10~15団体ですね。定例会ではコンプライアンスなどの情報は協会からアナウンスをしますが、主に事業所さんの問題点などを挙げて、その問題に対して意見交換をします。成功事例も失敗事例も共有して自身の事業所でも取り組む、そこに魅力があると思います。定例会に出席される事業所さんの中には社長さんだけではなく、サービス管理責任者の方が出席される事もあります。懇親会もしているので情報交換やモチベーションアップにも繋がりますよね。
山下 ところで、もちろん一般就労が社会的自立への一歩だと思うのですが、つばさに問合せいただく8割近くの方は現時点で一般就労は難しい方が多い、という印象なんです。かと言ってその方々のほとんどがA型・B型・移行支援を含めた障害福祉サービスの存在を知らない。家に居るくらいだったら事業所に通って働いたり、新しいスキルを身につけたりして、支援を受けながら一般就労を目指すのがいいと思いますが、なかなか障害福祉サービスが浸透していない。そこは行政と福祉と企業が連携を取りつつ進めていかなければいけませんよね。A型の事業所さんの中には一般企業と変わらない雇用形態、雇用条件の所もありますし、現時点では一般就労が難しくても、障害に配慮された環境ならパフォーマンスが発揮でき、十分な生産性を上げることができる方も存在します。そのため、A型の事業所の必要性や可能性もかなりありますよね。
中川 一般企業の障害者雇用率の問題など、来年から101人以上の規模の会社が雇用納付金の対象となりますけど(注1)、そうなると今後はA型事業所が中心にならなければなりません。今までの就労実績やどういう事ができる方なのかがわかるのがA型だと思うんですよ。それぞれの事業所の個人の仕事のカルテのようなものを作り、一般企業からこういう人材がいないかと問われた時にすぐ紹介できるような体制を作っていかなければならない。そのためのSIPの取り組みとして職員の教育が必須だと考えます。環境が良く雰囲気のいい事業所さんは職員の方がしっかり指示指導されています。当然利用者さんの教育や環境の改善も必要ですが、職員さんのレベルアップが急務です。ビジネススキルを学べる場を提供することが大切なんじゃないかと思います。よくA型の事業所さんから利用者さんの出勤率が悪いと相談を受けるんですが、出勤率が高く利用者さんが生き生きとしている事業所さんはコミュニケーションが取れている。利用者さんが居てこその事業所なので、毎日来てもらい一生懸命働いてくれる環境づくりが重要ですね。特に障害者の方は観察力が優れているので職員さんの意識を感じ取ります。自分の怠慢だけで来ないという事ではないと思うんです。
山下 職員さんの待遇があまり良くないために、いい人材が来てくれなかったり、定着しなかったりする事業所も多いみたいですね。そこは高齢介護や障害福祉の両方にも通じる所があるし、従業員満足度を根幹から追及していく必要がありますよね。
― 義務化される精神障害者の雇用
山下 平成30年から企業に精神障害者の雇用が義務化される(注2)という事ですが、まだまだ受け入れ準備は整っていない企業も多いですし、現時点で一般就労が難しい方も大勢いますよね。となると精神障害者の方の自立に向けてどのようなステップが望ましいとお考えですか?中川 理想は一般就労なのでしょうが、現実的に難しい。同じような悩みを持った方々で、作業所というよりは一企業として収益を産み出し、給与で還元するのがベストですね。今後はSIPが一般企業とのパイプ役を担い、「こんな事業がありますよ」という発信をしていけば事業所が助かると思います。経営戦略を構築していく事などもSIPとしての役割でしょうね。
山下 行政は共同受注窓口というものを用意はしてますが、実際にはそれほど機能してないように感じます。つばさの主旨に、「企業と福祉を繋げる」というのがテーマとしてあって、そこに行政も加われば、もっと仕事もたくさん流れてきますよね。その点、中川さんがされている取り組みは核となるものですよね。SIPはどこまで広げていくんですか?
中川 社会福祉法人は横の繋がりもあるけれど、民間は一事業所では出来る事に限界があると思うんです。出来る事なら愛知県の民間系の事業所さんに全部登録していただいて、協力しながらレベルアップを図っていく。そしてそれを全国に広げたいですね。例えば、過疎化で若い労働力がない地域がたくさんある中で、そこに障がい者の方を労働力として見い出せたら地域にとっても助かると思います。成功事例をもっている愛知県だからこそ出来る事だと思うので、それはやっていきたい。愛知県の土台が固まり次第、まずは東海、三重、岐阜にも広げていきたいと考えています。
山下 今後のご活躍をお祈りしております。本日はどうもありがとうございました。
中川 ありがとうございました。
(注1)「障害者の雇用の促進等に関する法律」では「障害者雇用率制度」が設けられており、事業主は、その「常時雇用している労働者数」の2.0%以上の障害者を雇用しなければなりません。
2015年4月1日からは、常時雇用している労働者数が101人以上の事業主にも納付金制度の適用が拡大されます。
(注2)2018年4月からは法定雇用率の算定基礎に精神障害者を加え、障害者手帳を持つ精神障害者の雇用が義務づけられます。